SCCmec解説
SCCmecはメチシリン耐性遺伝子を運ぶ染色体カセットstaphylococcal cassette chromosome (SCC)の一種です。メチシリン感受性ブドウ球菌はSCCmecを獲得することによりメチシリン耐性ブドウ球菌に変化します。またメチシリン耐性ブドウ球菌からSCCmecが脱落するとメチシリン感受性ブドウ球菌に変化します。
SCCmecの基本構造
1. これまでに塩基配列が決定されたSCCmecには、最初に報告されたN315株の持つSCCmecと共通した以下のような共通した特徴があります。
1. mec遺伝子複合体を持つ。
2. ccr遺伝子複合体を持つ。
3. 両端に特徴的な塩基配列(direct repeats/inverted repeats)を持つ。
4. orfXの3’末端 (integration site sequence for SCC; ISS)に挿入されている。
2. SCCmecの中で、ccr遺伝子複合体とmec遺伝子複合体以外の領域をJunkyard region(J領域)と呼びます。orfXの3’末端からmec遺伝子複合体までの領域(J3領域)、mec遺伝子複合体とccr遺伝子複合体の間の領域(J2領域)、ccr遺伝子複合体から挿入部位の下流の染色体までの領域(J1領域)の三つの領域です。
SCCmecの構造の多様性
SCCmecが共通して保持しているmec遺伝子複合体, ccr 遺伝子複合体には幾つかの構造の異なるもの(アロタイプ)が存在します。mec遺伝子複合体には4つのクラスが見いだされています。ccr 遺伝子複合体には6つのタイプが見いだされています。またJ領域の構造は更に多様です。SCCmecはこれらの多様性をもとに以下のように分類されています。
(1)SCCmecタイプ:ccr遺伝子複合体のタイプとmec遺伝子複合体のクラスの組み合わせにより定義
SCCmec type combination of ccr and mec
Type I type-1 ccr carrying ccrA1 and B1 and class B mec (1B)
Type II type-2 ccr carrying ccrA2 and B2 and class A mec (2A)
Type III type-3 ccr carrying ccrA3 and B3 and class A mec (3A)
Type IV type-2 ccr carrying ccrA2 and B2 and class B mec (2B)
Type V type-5 ccr carrying ccrC and class C mec (5C)
Type VI type-4 ccr carrying ccrA4 and B4 and class B mec (4B)
SCCmecタイプはローマ数字により記載します。多様なSCCmecに対処する方法として我々はccr type(アラビア数字)とmecクラス(大文字英字)を併記して記載する方法を提唱しました(Chongtrakool et al. 2006)。その目的の一つはtype IV SCCmecを巡っておこっていた混乱を収拾することでした。2001年にOliveiraらはポルトガルの小児由来のMRSA、HDE288が新しいタイプのccrAB遺伝子(type-4 ccr)を持つことを見出し、このSCCmecをtype-IV SCCmecと命名しました(Oliveira et al, 2001)。全く別個に、2002年に馬らはシカゴ大学で分離されたC-MRSAの持つSCCmecの全塩基配列を決定し、type-2 ccrとclass B mecを持つSCCmecとしてtype-IV SCCmecと命名しました(Ma et al., 2002)。その後、世界的に後者のtype-IV SCCmecがC-MRSAに多く見出されたために、type-IV SCCmecは後者のものを指すと認識されてきました。HDE288のもつSCCmecを4Bと記述することが良いと提案した次第です。しかし、ローマ数字を使用した従来のタイプ名記載法の方が、簡略で、しかもすでに国際的に確立した認識となっているので、変更することは好ましくないという意見が多かったため、ローマ数字による記載法を継続することにしました。すなわち、ローマ数字のI, II, III, IV, V, VIはそれぞれ1A, 2A, 3A, 2B, 5C, 4Bと同じ意味を表します。提案した記載法はsystematic nameとして、このホームページで記載し継続して使用して行くことにしました。
(2) J 領域の構造の基づくサブタイピング:J1, J2, J3領域の構造の違いにより定義。ccrとmecの組み合わせが同じ場合(同じSCCmecタイプ)の場合でもJ領域は異なっている場合があります。 特にJ1領域はmecが挿入される以前のSCCの構造を反映していると考えられ重要であると考えられています。またJ2, J3領域には挿入配列(IS)や薬剤耐性遺伝子を持つプラスミドやトランスポゾンが挿入されている場合もあり、それぞれのSCCmecの特徴となっています。 これらのJ領域の違いは、SCCmecタイプの次にピリオドをつけそれぞれの領域ごとに順次アラビア数字で記載します。
付記:AACに掲載された最初の原案(Chongtrakool P et al. 2006)ではJ1領域、次にJ2-3領域の違いを順次記載するというものでした。しかし、別個にそれぞれを記載すべきであるという意見がだされたので、現在のような形で提案しています。
これまでに塩基配列が決定されたSCCmecの構造(詳細は図をクリックする)